こんにちは。ニューロガストロノミー研究家の大嶋です。
今年の夏は、とにかく暑い。少しでも外を歩こうものなら、エンドレス汗製造マシーンと化し、どんなに職場が苦手であろうと、冷房の効いたオフィスをこの世の天国だと錯覚してしまう。猛暑とは、実に奇怪なものですね。
見た目的にも、ニオイ的にも、なるべく汗はかきたくないと思う人もいるでしょう。私たちは、なぜこんなにも汗をかいてしまうのでしょうか。汗をかいたら痩せるのは本当なのでしょうか。
夏季限定で全国民の敵となる汗ですが、「彼を知り己を知れば百戦殆からず」です。敵について知れば、すなわち汗について理解を深めれば、汗と仲良く共存していくことも可能でしょう。そこで、今回の記事では、汗に関する4つのトピックをご紹介いたします!
01.男性は女性よりも汗をかきやすい
「汗は体温を下げるためにかく」。みなさんも、一度は人が汗をかく理由を見聞きしたことがあるでしょう。確かに、汗は体温を下げるためにあります。
体温は、上がりすぎても下がりすぎても体のはたらきに支障をきたすため、人の深部の体温は常に37度程度に保たれています。
体に熱がこもりすぎた場合、熱を放出して体温を下げる方法には、2つあります。1つは発汗で、出てきた汗が蒸発する時に熱が奪われることで、体温が下がります(湿性熱放散)。もう1つは、血管を拡張して血流量を増やすことです。深部の熱が血液を介して皮膚まで届き、皮膚から外に出ていくことで、体温を下げるのです(乾性熱放散)。
私たちは、この2つの機能を組み合わせて体温を下げていますが、実は、組み合わせの仕方には男女差があります。男性は発汗に依存して体温を下げる傾向にあり、女性は血管拡張を利用して体温を下げる傾向にあるのです。男性のほうが汗っかきなのはこのためです。
また、12歳以下の子どもは、汗を分泌する「汗腺」が未発達です。大人と同じようには、汗をかくことで体を冷ますことができません。暑い場所で、大人が平気で過ごせているからといって、子どもも同じように平気ということはないのです。子どもの熱中症には十分注意が必要です。
そして、同じ恒温動物でも、人以外の多くの動物は汗をかくことができません。汗によって体を冷やせるのは、人と馬くらいだと言われています。猛暑はつらいですが、汗をかいて体を冷やすことができるだけ、他の動物よりはマシなのかもしれませんよ。
02.辛いものを食べると、むしろ体温は下がる?
人が暑さで汗をかくまでの間には、体の中で大まかにこんな反応が起きています。
皮膚上で周囲の温度を検知
↓
脳が「暑い」と判断
↓
交感神経が汗腺を刺激
↓
汗を分泌
実は、この「温度を検知する」で使われるセンサーは、トウガラシなどの辛さの刺激を受け取るセンサーと同じです。センサーは「TRPV1」というタンパク質でできており、別名を「カプサイシン受容体」などと呼ばれたりもします。
通常、辛いものを食べると汗をかきますし、体感として体が熱くなったかのように感じますよね。しかし、実際には、トウガラシに含まれる「カプサイシン」と呼ばれる成分が、温度の刺激と同様にTRPV1を刺激しているだけなので、体温の数値には影響を与えていないのです!
もちろん、食べ物の温度が高ければ、温度の刺激で体は実際に熱くなりますし、そもそも食後は消化が活発になるなどの理由で体が発熱するため、体温は少し上がります。しかし、どんなに激辛なものを食べても、他の温かい食べ物と同じぐらいにしか体温は上昇しないのです。
トウガラシのカプサイシンによってTRPV1が刺激されたあと、以後のルートは温度で刺激された場合と同様なので、トウガラシを食べても汗は出ます。しかし、通常は、上がった体温を下げるために汗が出るところ、体温が上がっていないのに汗が出るという状態になります。また、他の温かい食べ物を食べたときよりも汗が出るので、通常の食後よりも汗によって体が冷えます。
つまり、辛いものを食べると、むしろ体温は下がると言えるのです。暑い地域の人たちに、辛いものを食べる習慣がある場合が多いのは、辛さが体温を下げる効果があることを経験として知っているから、というのも理由の1つのようです。
03.「汗をかく=脂肪は燃焼する」わけではない
また、汗といえば、脂肪燃焼やダイエットに関係するイメージがあるかもしれません。スポーツジムに通っていると「しっかり汗をかこう!」と煽られることさえあります。汗をかくことは、痩せに関係があるのでしょうか。
結論から言えば、汗をかくことそのものが脂肪の燃焼と直接関係しているということはありません。
体の中で熱を生み出す場所は、ほぼ筋肉しかありません。内蔵や血管を動かす筋肉(平滑筋)、心臓を動かす筋肉(心筋)、そして腹筋や上腕二頭筋などでおなじみの、全身にある骨格筋です。これらが収縮したり伸張したりする時に、熱が生み出されるのです。脂肪が”燃焼する”などと表現しますが、脂肪が使われることで生み出される熱が体温に貢献する割合はわずかです。
筋肉は、ご飯やパンなどに含まれる糖分である「グルコース」をエネルギー源として動きます。運動によってたくさん汗をかくのは、こうした筋肉の動きが増えて、いつもよりたくさん発熱するために過ぎません。
運動の結果、筋肉がついたり、摂取カロリーより消費カロリーが上回ることで痩せることはあっても、汗をかくこと自体が、痩せに貢献しているというわけではないのです。
また、「脂肪燃焼サプリ」と呼ばれるものの中には、トウガラシのカプサイシンが入っていることがあります。02.で解説した通り、カプサイシンによって汗の量は必要以上に増えるので、サプリを飲むと、すごく運動した気になったり、ダイエットに役立つような気になるかもしれません。しかし、汗の量は脂肪燃焼とは直接関係ないのです。
(カプサイシンには、脂肪を燃焼させる組織「褐色脂肪細胞」のはたらきを活発にする役割はあります。しかし、人の持っている褐色脂肪細胞の数は少ないので、カプサイシンだけでダイエットに劇的な効果を出すことは難しい言われています。)
04.「脳温」を下げることも大切
暑いと体がぐったりするだけでなく、頭がうまく回らなかったり、仕事が捗らないといった事態に陥ることはありませんか。頭が働かない理由の1つは、脳の温度にあります。
よく、夜更かしや徹夜をすると変なテンションになることがありますが、これは脳の温度が関係しています。
睡眠中は、骨格筋の緊張が緩みます。先程も述べたように、体の熱のほとんどは筋肉によって生み出されているので、骨格筋の緊張が緩むと、そのぶん熱が作られないため体温が下がります。よって、脳の温度も下がります。脳が冷めている間には、機能回復や神経細胞の修復などを行っていると言われています。
起きている時間が多いと、立ったり座ったり活動をしているので、骨格筋の緊張が緩まず、体温が下がることがありません。すると、脳の温度も下がらないので、脳の機能を回復することが出来ないのです。深夜独特のハイテンションはこうして生み出されると言えるでしょう。
私たちの体は、脳を冷ます工夫が備わっています。激しい運動をしたあとに、特に顔の部分にたくさんの汗をかくのも、脳の温度を下げるためだと言われています。イライラしたり、馬鹿な考えをしてしまうときには、よく「頭を冷やせ」と言いますが、本当に物理的に脳を冷やすことは、正常な思考を保つために重要なのです。
以前の記事で、脳を騙して満腹感を得る「錯覚満腹感」のテクニックをご紹介しました。このような満腹感を生み出し、ダイエットに役立てるためにも、汗をかいたり規則正しく睡眠をとったりして、日頃から脳を冷ますようにしましょう。顔中が汗だくになった時とは、脳を冷やすチャンス!なのです。
汗は身近なものですが、意外とよく知らないことも多かったのではないでしょうか。この記事を読んだ皆さんは、全身マーライオンになることを恐れず、暑いときには積極的に汗をかいていきましょう。もちろん、汗をかくと水分やミネラルが失われるので、こまめな水分・ミネラル補給もお忘れなく!
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大嶋 絵理奈
ニューロガストロノミー研究家・サイエンスライター
2015年、東京大学大学院総合文化研究科修士課程ならびに科学技術インタープリター養成プログラム修了。専門は分子生物学、食品化学、認知心理学。食と科学のウェブメディア「Minamoca Lab.」を中心に各種ウェブメディアや雑誌で執筆を行う。「味を感じる器官は脳である」と考える“ニューロガストロノミー”に関心を注ぎ、五感や認知がおいしさに与える影響を探求している。
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